英語の勉強になればと思って始めた、GLドラマの字幕づくり。
やってみて一番難しいと感じたのは、難しい単語でも、長い台詞を読みやすく削ることでもなく、「相手をどう呼ぶか」でした。
いや、これほんとに難しい。呼び方ひとつで、ニュアンスが変わってくるもんね。
アジアのドラマは、呼び方の中に二人の関係が詰まっています。
タイの「ピー」と「ノン」は、まさにそれ。
タイの「ピー」と「ノン」は、ありがたい副産物
タイのGLドラマを観始めたころは、「ピー」と「ノン」がどうにもピンときませんでした。
タイ語では、年上の相手を「พี่(ピー)」、年下の相手を「น้อง(ノン)」と呼びます。血がつながっていなくても、恋人同士でも、年の差で自然にこう呼び合う。
観ているうちに、「ああ、そういうものか」と慣れてきました。
たぶんタイの人にとっては、日本人が年上に「さん」を付けるくらいの、ごく普通のことなんですよね。
ところが日本人の耳には、これが大変に甘く聞こえてしまう。
「ピー」と呼ばれるたびに、「お姉さん…」とちょっと慕われているように聞こえる。
文化の違いが生んだ、ありがたい副産物です笑
※Us(รักของเรา)第6話の場面を含みます

たとえば、タイのGLドラマ『Us(รักของเรา)』第6話のこの場面。
見つめ合いながら、年下の子が「カ、ピー・パム」とささやきます。
「カ」は女性の丁寧な言葉、「ピー」は年上への呼びかけ、「パム」は名前。
タイ語としては、年上のパムに対するごく自然な呼びかけのようだけど、
でも、この距離でこう呼ばれたら……日本人としては🥰です笑
【Us(รักของเรา)第6話】
※でも上のリンクはこの画面からの再生になるので、最初から観たい方はこちらから
▶【第1話から観る(公式プレイリスト)】
『Us』も面白いよ!
でね、日本語で使うと普通だけど、外から聞いたら甘く聞こえるものってあるのかしら?と考えてみたわけです。「〜ちゃん」とか?でも「〜ちゃん」の場合、日本でもちょっと甘い感じが出るじゃない?って思って調べてみたら、海外のアニメファンは「Senpai」にときめくらしいね。へー、なるほど。
「先輩」は確かに甘くも言えるけど、基本的には上下関係の言葉だからね。さして好きでもない人にも、ちゃんと使うし。
日本人にとってはただの上下関係の言葉が、外から聞くと妙に甘い。
タイの「ピー」も、きっとそういうことなのでしょう。
中国語の呼び方には、気持ちがにじむ
中国のドラマ『Dear Professor』の字幕を作っていても、呼び方で何度も立ち止まりました。これはほんとに困った。今でも迷っています。
名前を重ねると、ぐっと親密になる
主人公の乔弄溪(チャオ・ノンシー)は、「弄弄(ノンノン)」と呼ばれます。中国語では、名前の1文字を重ねるのは、家族や恋人が使う親しい呼び方。これも中国の人には普通でも、日本人には若干、甘く聞こえるパターンです。
(ちなみに、タイ語の「ノン」と響きがそっくりなので、違和感なく受け入れられるうれしいポイント。ただの偶然ですが笑)
フルネームは、距離か怒りのサイン
重ねて呼ぶのとは逆に、わざとフルネームで呼ぶときは、突き放したり、責めたりしているニュアンス。字幕でもフルネームのままにして、その冷たさを残すようにしています。
「小姐」はかなりの要注意
「小姐(シャオジエ)」は本来「〜さん(女性)」という丁寧な呼び方。ところが今の中国では、夜のお姉さまを連想させる含みもあって、嫌がる人もいるようです。(個人的には、夜のお姉さま方のプロ意識、心から尊敬してる派閥!!)
作中、そう呼ばれた人気女優が「その呼び方やめて」と嫌がる場面があるんですが、日本語の「さん」ではその理由が伝わりません。悩んだ末、「…ヤン様」と、かなりかしこまった感じにしました。超有名人に初手で話しかけるシーンだから、ギリありかと。
ここはニュアンスが難しい。誰かいい案をくれたらうれしいです。
「老師」は先生?教授?
「老師」は、学校の先生に限らず、専門職の人への敬称として広く使われます。「先生」と訳すか「教授」と訳すかで、その人がどこで何をしている人なのか、設定まで考えることになります。
その登場人物が会社員なのか研究者なのか、肩書きひとつで迷いました。ここも「いまだに正解は分からないけど、何とかまとまったんじゃないかしら?」ポイントです。
「姐」をどう訳す?
中国では、年上の女性に親しみと敬意を込めて使う「姐(ジエ)」。
日本語で「姐さん」と訳すと、なぜか別の世界の香りがしてきますからね。結局ここは『姉さん』とか『~さん』とかで落ち着きました。
日本語にするときの悩み
日本語に置き換えようとすると、「さん」「ちゃん」「先輩」「呼び捨て」あたりで何とかするって感じになるかな。中国語やタイ語の細かいニュアンスを、これだけで拾うのは至難の業です。
現地の人の感覚に忠実に訳すほど、日本のファンが楽しんでいる甘さが消えてしまう。
「ピー」を「名前+さん」にすれば、タイの人の感覚には近くなるかも。でも、日本人が聞いたときのあのときめきはなくなります。
かといって「お姉さん」にすると、またちょっと違うような。
正解がないからこそ、毎回「この二人なら、日本語でどう呼ぶだろう」と想像しながら決めています。
難しいけれど、面白いところです。
おわりに
呼び方が変わる瞬間は、二人の距離が変わる瞬間です。
よそよそしい呼び方から、親しい呼び方へ。あるいは、その逆へ。
ドラマを観るときは、ぜひ呼び方を耳で聞いてみてください。
字幕では伝えきれない甘さが、きっと聞こえてくる(はず)
『Dear Professor』は、YouTubeの公式チャンネルで観られます。
呼び方の変化を探しながら、ぜひ本家で楽しんでくださいね。



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